食と農をつなぐ架け橋に。
ローカルボイス
日本有数の農業生産地・東三河。ところが豊橋のような産地であっても、生産者と消費者の距離は遠い。食べる側はあまり農業を知らないし、農家は消費者の声を直接聞く機会はあまりない。「ローカルボイス」は、そんな「声」をお互いに届けるための架け橋を目指した。
地域活性に興味を持って入学した神野元汰さんは、1年生の終わりに「葉っぱビジネス」の成功で知られる徳島県上勝町で1ヶ月間の農業インターンを経験した。そこでの暮らしは、あまりに刺激を受け過ぎて、大学に戻ったら虚無感を覚えてしまうほど強烈だったという。外から来る若者たちが夢を語り、地元の人たちも楽しみながらともに活動し、さらにその輪の中には高齢者たちの姿もある。理想といえる地域づくりを目の当たりにした。
“地域の人が、
自分の地域を誇れるように。”
上勝町で得たヒントから考え出したのが、東三河の農業に学生の目線からアプローチし、生産者の想いやこだわりを消費者へとつなげる「ローカルボイス」だ。東三河にはキャベツをはじめ全国トップクラスの出荷量を誇る野菜がたくさんある。だが地元の人は、学生も含めてさほど認識がない。郊外には延々と露地野菜の畑やビニールハウス群が広がっているのに、スーパーに行けば、別の産地の野菜も数多く販売されており、外国から輸入される安価な野菜との熾烈な競争がある。そこに疑問を感じた神野さんは、消費者の野菜に対するニーズを調べるため、野菜を選ぶ際の優先項目と、ポップの説明を読むかどうかを、JAなどの直売所とチェーン店で独自に調査・分析した。
「JA系統で買い物をする消費者は、産地や見た目などの状態を意識する傾向があり、チェーン店のスーパーでは価格優先度が高く、お店によって野菜を選ぶ基準が違うことがわかりました。ポップを読むかどうかについては、JA系統ではよく読む・たまに読むが8割、チェーン店では6割。比率の差はあるものの、大半の消費者は見た目だけではわからない情報を求めていることがわかりました」
“冬瓜の魅力を学生さんたちが
発見・発信してくれたことが嬉しい。”
調査の結果を踏まえ、活動2年目には農作物に付加価値を付けて販売するプチブランド化戦略を進めた。着目したのが、全国2位の生産量を誇るものの、野菜の中ではマイナーで、調理方法のバリエーションが少ない冬瓜だった。豊橋のキャベツ農家では、10月頃から6月まで、冬キャベツ・春キャベツなど品種を変えて順繰りに収穫し、夏の間は冬瓜やトウモロコシを育てるところが多い。キャベツ農家の平松教孝さんも、6年程前から夏場は冬瓜づくりに取り組んでいる。
「どう料理に使っていいか分からないと言われることはあっても、農家は作るのに精一杯で、売るのは出荷先にお任せになってしまう。どう食べるかという提案は考えたことがなかった」
そんな平松さんの冬瓜を、豊橋駅前のカフェ「ノード」が協力してフルーツポンチに仕立て、神野さんたちが蒲郡まつりで販売。10kgの冬瓜をくり抜いた器のインパクトや、冬瓜の成長日記を表した特大ポップが目を引き、見事200食を完売した。
作り手の想いを知ることで、
地域の食と農の可能性が広がる。
さらに、「出荷前の野菜を消費者に知ってもらいたい」と、豊橋駅前で開催されたマルシェでは、野菜の株を土ごと衣装ケースに植え替えて ”畑ごと“会場に持ち込み、来場者に収穫体験を楽しんでもらった。ただ野菜を買うのではなく、葉っぱや根の形など野菜の全貌を見て、収穫の手応えを感じてもらいながら、作物の育て方や特徴、食べ方などを説明。作り手の想いやこだわりが伝われば、日々の食卓にも変化が訪れ、いずれ地域の食と農も変わるはず。「農家さんにもワクワクしてもらいたいし、自分たちも楽しみたい」という神野さん。そんな学生らしい視点と感性は後輩たちにも受け継がれ、生産者と消費者の距離を近づけるために知恵を絞り、汗を流す活動が続いている。