児童養護施設での学習サポート。
自分の人生を歩き出すために。
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児童養護施設「豊橋若草育成園」を定期訪問し、小・中学生に学習支援ボランティアを行なう。児童福祉法の改正により、学齢期の子ども6人に対して職員1人体制から、4対1まで配置基準が改善したとはいえ、まだまだ人手が足りない中、大学生による学習支援が始まった。

児童養護施設は、以前なら両親の離婚や経済的な破綻、身体的な暴力などを理由に入所するケースが多かった。豊橋若草育成園の林義典園長によれば、それが最近は大きく変化しているという。

「当園でいえば、虐待を受けた子が6割を超え、その中でも一番多いのがネグレクト(育児放棄)です」

ここには5つのホームがあり、2歳から18歳まで46人の子どもたちがともに暮らしている。ネグレクトが増える今、施設に来る子どもたちは学力の低下が著しい。幼児期からの言葉や文字の獲得が乏しく、手遊びの中で数を数えるといった基本的なことが抜け落ちてしまっているため、漢字の書き順がめちゃくちゃだったり、下から上に線を引いたりと、人との関わりの中で自然と身に付くことが学べていないのだ。

Interviewee
近藤 志帆さん
2018年代表
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“子どもたちに、自分の将来の可能性を狭めてほしくない。”

2014年に活動を始めた「SMILE」は、当初は子どもたちと一緒に遊んだり、話し相手をすることで交流を図ったり、イベント時の手伝いなどが主な内容だったが、2016年の終わり頃から、園の要請もあって学習支援にシフトした。学生たちは週に1〜2回訪問し、夕食を済ませた子どもたちに個別学習指導を行なう。3年次に代表を務めた近藤志帆さんは、始めた頃をふり返って話してくれた。

「最初はまったく心を開いてもらえなくて、時間中ひたすら英単語を書いたり、黙々と漢字の書き取りをしたり、教える隙も与えてもらえず、戸惑いました。勉強のために来ているけれど、勉強をつまらない、退屈なものでなく、楽しいと感じてもらいたかったので、粘り強く会話の糸口を探しました。半年くらいして、子どもから質問を持って来てくれるようになり、やっと少し心を開いてくれたかなと、ほっとしました」

心を閉ざしがちな子どもたちへ、
勉強を通したアプローチ。

園の子どもたちは個々にデリケートな事情を抱えているため、心を固く閉ざすケースも少なくない。近藤さんたちは、メンバー間で1人1人の子どもに関しての情報を共有し、助成金によって新しい学習教材を導入するなど、コミュニケーションと学習の両面で工夫を重ねた。そうした地道な活動は子どもたち同士の中で徐々に広まり、個別学習を希望する小・中学生が増え、今では訪問を心待ちにする子も多い。主任児童指導員の朝倉康生さんは、「個別学習をきっかけに、それまで大きく遅れていた学習を取り戻そうと、塾に行きたいと申し出てくれた子もいます。反抗期の子でも、大学生が来てくれる日になると、その前から勉強し始めたりして、お兄さん、お姉さんとの交流がいい影響を与えてくれています」と、SMILEの取り組みに感謝した。

Interviewee
林 義典さん
豊橋若草育成園 園長
Interviewee
朝倉 康生さん
豊橋若草育成園
主任児童指導員
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“大学生とのふれあいが、
子どもたちの視野が開くきっかけに。”

児童養護施設に来る子どもたちの原因をたどると、その親も同じく施設で育ったケースが目立ち、負の連鎖が起きている。どこかでそれを断ち切る必要があり、そのために求められるのが学力だ。ただし、それは子どもたちにとって決して簡単ではないと、林園長は語る。

「親と暮らせない子どもたちは、自分の人生の目標が家に帰りたい、“施設を出たい“となってしまい、なかなか学習意欲に心が向きません。逆に両親が他界したなど、諦めざるを得ない場合には自立に向かう気持ちも芽生えやすいですが、入所・退所を繰り返すケースではとても困難です。親族との関わりが薄い中、大学生のお兄さん、お姉さんと触れ合う機会が持てるのは、そんな彼らにとって非常に貴重な体験です。子どもたちの視野が広がり、こういう生き方ができる、大学に行ってみたい、アルバイトもしてみたいなど、将来の夢が広がるきっかけになれば」

勉強は時に苦しいかもしれない。でも、解けた喜びは自信になる。それは彼らが自分の足で歩き出すために、どうしても必要な礎となる。ある日の学習時間、学校で花丸をもらったノートを嬉しそうに近藤さんに見せる子どもの姿があった。それは根気強く支援を続ける学生たちに贈られた花丸にも思えた。